教伝内容:二蓋笠会の教修技法

新陰流では「形」の事を「勢法」と云います。
それは形稽古は「かたち」を学ぶのでは無く、その動きの中にある武術の理論を学ぶ方法だからです。
「形」をひたすら稽古する事で動きの本質を学び、習得して自由自在に動ける身体を追求して行きます。

心身の姿勢「身構え」・手足の働きを練る事「手足」・太刀筋を使い覚える事「太刀」の三点に重きを置き、勢法を実践して身位・間積り・拍子を学びます。

最初は体全体を使った大きくゆっくりとした動きから学び始め、段々と集約された小さく速い動きへと難易度を上げていきます。
表から奥、初手から奥義へと、一人一人の段階に応じた稽古に取り組みます。

燕飛

愛洲移香斎の「猿飛」から上泉伊勢守が発展させた刀法であり、昔の表太刀です。
打ち切って途切れる事無く循環し、続け遣いに連続して遣います。

影目録に「懸待表裏は一隅を守らず。敵に随って転変し、一重の手段を施す。」とあるように、懸かったり待ったり、表と見せて裏と常に変化し、懸待表裏の四隅のどれか一隅の守りばかりに固執する事なく攻防一体となり、敵の様子に従ってそれぞれに転変する事を旨とした形です。
燕飛は使太刀(したち)・打太刀(うちたち)双方が新陰流を遣い合う形となっています。

三学円之太刀

この五本は上泉伊勢守が発明した「転」の道を象徴して新たに創出した形で、名の由来はみな禅語からきております。

三学とは仏教の戒・定・慧で、「戒」は禁戒。能く身口意所作の悪行を防禁するもの。「定」は禅定。能く慮を静め心を澄ましむるもの。「慧」は智慧。真理を看達して妄惑を断ずるものの事。
それを武芸の上にて云えば、稽古鍛錬するを「戒」、熟達して事に臨み、惑いなきを「定」、敵に応じてその対処法が自ずと空から発現するを「慧」となります。
江戸柳生で「身構え」「太刀(太刀路)」「手足」の三つを初学の門とし、これより学び入るを「三学」としているのも前述の意を含んでの事です。

また、円之太刀とは孫子の「渾々沌々として形円にして不可敗」の意で、円転して滞らぬ事を意味します。
それを武芸の上にて云えば、身体よく調和して身手足が自由自在に働き、心気充ちて敵がよく見え、盤を走る珠の如く円転自在な働きが出る事です。

形としては、敵に先を出させ、その動きに応じてこちらは待にして後の先で打ち乗り、攻めて詰めるを勝ち口とします。
この五つの形は、構えをして保つを専とする「待」の心持ちの剣で、敵方を新当流と想定しています。

九箇

この九本は諸流(念流・新当流・陰流等)の中から極意の太刀を九つ撰び出し、新陰流の太刀としたもので、動かない敵に対してこちらから先を仕掛けそれに乗ってきた敵の動きに随い、こちらが先の先で打ち詰めるを勝ち口とする形です。三学の「待」の刀法に対して「懸」の刀法となります。

この九つの形は、構えをして居る者に先を仕掛けて勝つ、あるいは先を仕掛けたけれども打ち損じて敵の変化に従い、二打目に勝つ稽古で、残心の習いです。

天狗抄

天狗とは山気にして、時有りて形を成すものとされ、本来兵法も無形の位ですが、敵に応じて形を成すを本原としている為、「天狗勝」と名付けられました。
又数有る兵法の技の中から優れ技だけを撰び出した為、「勝」の字を「抄」と替えて、「天狗抄」という名前にしたという説があります。
この太刀は、構えを習いとしてこちらから仕掛け、実際に切り結ぶ前の、目には見えない敵の心の転変に従い、表裏を以て敵を破る太刀です。

奥義(極意)之太刀

「策(はかりごと)を幃幄(いやく)の中(うち)に運(めぐ)らして、勝つことを千里の外に決す。」という新陰流の極意を具現化した太刀六本。
「添截乱截」の構えをする者には「無二剣」にて勝ち、「無二剣」には「活人剣」にて勝ち、「向上」にて「活人剣」に勝ち、「極意」にて「向上」に勝ち、「神妙剣」にて「極意」に勝ちます。これ以上は無いという事を示す為に、「神妙剣」と名付けて、この一心に極まります。

心の理を理解し、その理を知る事を兵法の根本として、心持ちの習を専らとした新陰流極意の太刀です。水月の間境(一足一刀の間)において繰り広げられる動作に現れる以前の目に見えない心気の攻防の中で、敵の心を感受して、それに応じた手段を施すのが眼目です。これは「燕飛」の稿で見た、「懸待表裏は一隅を守らず。敵に随って転変し、一重の手段を施す。」の集大成と云えます。

-本伝-

【燕飛】
猿廻
月影
山陰
浦波
浮舟
切甲
刀棒
【三学】
一刀両段
斬釘截鉄
半開半向
右旋左転
長短一味
【九箇】
必勝
逆風
十太刀
和卜
捷径
小詰
大詰
八重垣
村雲
【天狗抄】
花車
明身
善待
手引
乱剣
二刀
二刀打物
二人懸
【奥義之太刀】
添截乱截
無二剣
活人剣
向上
極意
神妙剣

二十七箇条截相

元来この二十七箇条截相は、新陰の太刀「三学」に始まり「奥義之太刀」に至る迄、十二分に練磨得道の上、最后の仕上の太刀ともいわれ、江戸柳生では免許の太刀としていました。その使い方は千差万別、これを如何に使うかは自由です。

江戸時代、尾張柳生家の兵法補佐役であった長岡房成師は、この太刀について「その形は重複する処多く、別に数かけて修行するに及ばざる故に伝えざるなり」とし、別に「試合勢法」を以ってこれに充てたればその必要なしとしています。

二蓋笠会においても試合勢法を稽古しており、本来の截相二十七箇条は使用しておりません。

試合勢法

合し打ち

「試合勢法」とは、長岡師が初学の者の為に、古今の必勝転勢を本として創った、勝を制する法を学ぶ稽古形です。二蓋笠会においても、本来の截相二十七箇条は使用せず、「試合勢法」の上段八本・中段十四本を十一本と数え・下段八本の計二十七本の形をもって現代における截相二十七箇条と定義し、袋竹刀の遣い方から合し打ち・相架刀・切り落としなどで基本的な体捌きを稽古していきます。

また、二十七箇条の序破急に喩えて、上段を書道で云えば楷書的に大きくゆっくりした「序」の拍子、中段を行書的に通常の切り合いの速さで「破」の拍子、下段を草書的に小さく集約した素早い体さばきが要求される「急」の拍子として遣い、学習段階に応じた質の高い動きを身につける稽古をします。

-試合勢法-

  • 【上段八勢法】
  • 【中段十一勢法】
  • 【下段八勢法】

十兵衛杖(新陰流仕込み杖)

柳生十兵衛公の工夫考案による特殊な杖と新陰流の術理を活かした五本の杖の形。

断面を三角形に削った四尺の竹や柊を三本合わせ、中心に鉄芯を入れ、間に細長い鋼の板を三枚挟んで、渋をかけたこよりで巻き上げ、漆を塗った独特な構造の杖です。軽く道中携帯に便利で、刀を持つ相手と立合っても杖を切られる事無く刀代わりの不殺の武器としても使えますし、鉄鞭の如く撓って必殺武器にもなり、活殺自在の働きをします。

-新陰流仕込み杖-

【十兵衛杖】

  • 速死一本
  • 大乱
  • 小手縛り
  • 三拍子
  • 高乱

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